「押下」の読み方は「おうか」。でもマニュアルで使うのはNG?プロが教える言い換えの新常識

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マニュアル作成中、「登録ボタンを押下してください」と書いて、ふと手が止まったことはありませんか?

「これ、堅苦しくないかな?」 「スマホユーザーにも『押下』って言っていいの?」

上司から急にマニュアルの更新を任され、既存の資料にある「押下」という言葉をそのまま使うべきか、それとももっと分かりやすい言葉に変えるべきか、迷っているかもしれません。

結論から言います。「押下」の読み方は「おうか」で正解ですが、ユーザー向けのマニュアルでは使うべきではありません。

この記事では、数多くの業務マニュアル改善を手がけてきたテクニカルライターの私が、IT用語のプロとして「仕様書用語」と「マニュアル用語」の明確な違いを解説します。そして、PCとスマホが混在する現代のUIライティングにおける、「押下」の最適な言い換えパターンを具体的にお伝えします。

これを読めば、「この言葉を使っていいの?」という迷いが消え、誰にでも伝わる親切なマニュアルを自信を持って作れるようになりますよ。


この記事の要約
「押下(おうか)」はボタンを押し下げる意味のIT用語ですが、ユーザー向けマニュアルでは使用を避けるべきです。理由は、開発者向けの「仕様書用語」であり、スマホ操作の実態にも合わないためです。解決策として、PC・スマホ両対応の「押す」への統一や、デバイスに応じた「クリック/タップ」の使い分けを推奨します。

著者プロフィール:高橋 リエ
テクニカルライター / UIUXライティング・コンサルタント
大手IT企業のヘルプセンター刷新プロジェクトを主導し、問い合わせ件数を30%削減した実績を持つ。「言葉の正しさ」よりも「伝わりやすさ」を最優先する実務家として、現場で使える具体的な解決策を提案している。著書に『伝わるマニュアルの書き方』など。

目次

1. まずは正解を確認:「押下」の読み方と本来の意味

まずは、あなたが検索した一番の疑問、「読み方」と「意味」についてクリアにしておきましょう。

「押下」の正しい読み方は「おうか」です。「おしげ」や「おしした」と読むのは間違いです。

意味は文字通り、ボタンやキーを「押し下げる」ことを指します。元々はタイプライターや物理的なキーボードのキーを、指でグッと押し込む動作を表すために使われていた言葉です。

しかし、ここで一つ注意点があります。「おうか」という音は、口頭では非常に伝わりにくいのです。「人生を謳歌(おうか)する」という言葉と同じ音なので、会話の中で「ボタンをおうかしてください」と言うと、相手は一瞬「えっ?」と戸惑ってしまうかもしれません。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 「押下」は書き言葉専用と考え、口頭説明では絶対に使わないようにしましょう。

なぜなら、『押下』が口頭では伝わりにくいという点は多くの人が見落としがちで、電話サポートなどでうっかり使ってしまい、顧客を混乱させるケースが後を絶たないからです。「押下」はあくまで文字情報としての専門用語であり、耳で聞く言葉ではないと割り切ることが大切です。

2. なぜ現代のマニュアルで「押下」を使ってはいけないのか

「読み方はわかった。でも、なんでマニュアルで使っちゃダメなの? 仕様書には書いてあるのに」

そう思うのも無理はありません。実際、システム開発の現場で作られる「仕様書」には、「押下」という言葉が頻繁に登場します。しかし、「仕様書」と「マニュアル」は、そもそも読む人も目的も全く異なる文書なのです。

仕様書は「開発者のための言葉」、マニュアルは「ユーザーのための言葉」

「押下」は、システム開発の仕様書で標準的に使われる業界用語(方言)であり、本来は開発現場に所属すべき言葉です。 開発者同士が厳密な動作定義を共有するためには必要な言葉ですが、一般ユーザーにとっては馴染みのない、堅苦しい専門用語に過ぎません。

ユーザー向けのマニュアルで「押下」を使ってしまうのは、いわば「内輪の言葉」で部外者に話しかけているようなもの。このような専門用語の多用は、ユーザーに「不親切だな」「難しそうだな」という印象を与えてしまいます。

スマホ時代に「押し下げる」感覚はない

もう一つの大きな理由は、スマートフォンの普及です。

「押下」という言葉には、物理的なボタンを「押し下げる」というニュアンスが含まれています。しかし、スマホやタブレットのタッチパネル操作には、ボタンを沈み込ませるような物理的なストロークはありません。

画面を軽くタッチするだけの操作に対して「押し下げてください(押下)」と表現するのは、実態にそぐわないのです。現代のユーザー、特にスマホネイティブな世代にとって、「押下」は違和感の塊でしかありません。

私が監修する現場でも、マニュアルの原稿に「押下」を見つけたら、真っ先に「押す」や「タップ」に修正します。ユーザーは「押下」という見慣れない漢字を見た瞬間、無意識に思考が停止してしまうからです。

仕様書用語とマニュアル用語の対比図

エンジニアが使う仕様書用語の「押下」をそのままユーザー向けマニュアルに使うと、ユーザーが困惑することを示すイラスト。

3. 【決定版】迷ったらこう書く!「押下」の言い換えルール

では、具体的にどう書き換えればいいのでしょうか? ここでは、PCとスマホが混在する現代において、私が推奨する「言い換えルール」をご紹介します。

パターンA:PC・スマホ両対応(推奨)→「押す」

最もおすすめなのは、デバイスを問わず「押す」に統一してしまうことです。

「えっ、『押す』なんて単純な言葉でいいの?」と思われるかもしれませんが、実はこれが最強の解決策です。

PCのマウス操作は「クリック」、スマホの画面操作は「タップ」。この使い分けを厳密にしようとすると、マニュアルの文章はこうなります。

  • 「PCの方は登録ボタンをクリック、スマホの方はタップしてください」

これでは文章が長くなり、読むのも面倒ですよね。しかし、「押す」という言葉は、「クリック」と「タップ」の両方の操作を包括できる便利な表現です。

  • 「登録ボタンを押してください」

これなら、PCユーザーもスマホユーザーも、迷うことなく操作できます。実際、使いやすさで定評のあるSmartHR Design Systemなどの先進的なガイドラインでも、「押す」への統一が推奨されています。

パターンB:デバイスを特定する場合

もし、PC専用のマニュアル、あるいはスマホアプリ専用のマニュアルを作る場合は、それぞれのデバイスに特化した言葉を使うのが自然です。

  • PC専用: 「クリック」(マウス操作)
  • スマホ専用: 「タップ」(画面操作)

パターンC:物理ボタン(電源など)→「押す」

PCやスマホの画面上のボタンではなく、本体の電源ボタンや音量ボタンなどの「物理的なボタン」を操作する場合は、Microsoft Style Guideなどの基準でも「押す (press)」の使用が推奨されています。

📊 比較表:「押下」の言い換えパターンと推奨シーン

元の言葉言い換え表現推奨シーンメリット
押下押す
(Best Choice)
💻📱 PC・スマホ両対応 (推奨)デバイスを問わず通じる。
文章がシンプルになる。
クリック💻 PC専用マニュアルマウス操作として一般的でわかりやすい。
タップ📱 スマホ・タブレット専用画面操作の実態に合っている。
押下押下📄 仕様書・開発ドキュメント厳密な定義が必要な場合のみ使用。
⚠️ マニュアルでは使用NG

4. 「押下」以外にもある!マニュアルで避けたい「仕様書用語」リスト

「押下」以外にも、仕様書からマニュアルに紛れ込んでしまいがちな「要注意ワード」がいくつかあります。これらも一緒に「翻訳」してあげることで、あなたのマニュアルは劇的にわかりやすくなります。

  • 遷移(せんい)する
    • × 「登録完了画面に遷移します」
    • ○ 「登録完了画面が表示されます」 / 「画面が変わります
    • 「遷移」も典型的なシステム用語です。ユーザーには「画面が変わる」と言ったほうが直感的に伝わります。
  • 打鍵(だけん)する
    • × 「パスワードを打鍵してください」
    • ○ 「パスワードを入力してください」
    • キーボードを叩くことを指す言葉ですが、今は「入力」が一般的です。
  • 一意(いちい)にする
    • × 「IDは一意にしてください」
    • ○ 「IDは他の人と重複しないようにしてください」
    • 「一意」はプログラミングやデータベースの用語。「重複しない」「かぶらない」と言い換えましょう。

まとめ:言葉選び一つで、マニュアルはもっと親切になる

「押下」という言葉は、仕様書の世界にそっと置いておきましょう。

マニュアルを作るあなたの目的は、正しい専門用語を使うことではなく、読み手が迷わずゴールにたどり着けるように案内することはずです。

「これ、伝わるかな?」と立ち止まれたあなたの感覚は、決して間違っていません。その「違和感」こそが、ユーザーへの優しさの証です。

さっそく、手元のマニュアルにある「押下」を「押す」に書き換えてみませんか? たったそれだけのことで、あなたのマニュアルはぐっと親しみやすく、頼れるガイドブックに生まれ変わります。


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