「朝起きると顎が痛い」「パートナーに歯ぎしりを指摘された」という佐藤さんの不安は、顎関節症・咬合専門の歯科医師として、私Dr. ヤマモトがよく理解できます。そして、「費用が高いから市販品で済ませたい」というお気持ちも分かります。
しかし、歯ぎしり対策において、市販のマウスピースは危険な応急処置であり、長期使用は絶対に避けるべきです。歯の健康は不可逆的であり、安易な選択は将来的に大きな後悔につながります。
この記事では、顎関節症専門の歯科医師である私が、市販品のリスクと、保険適用で安全に作れる歯科医院製マウスピースの費用と効果を徹底解説します。読み終える頃には、費用不安を解消し、あなたの歯と顎を守るための最適な選択肢が明確になるでしょう。
[著者情報]
著者:歯科医師 Dr. ヤマモト
- 肩書き: 顎関節症・咬合専門の歯科医院院長
- 専門領域: 歯ぎしり・食いしばり治療、顎関節症治療、咬合調整。
- 実績: 臨床経験20年。日本顎関節学会認定医。
- メッセージ: 「あなたの不安は理解できますが、歯の健康は不可逆的です。専門家として、費用や手間を理由に安全を犠牲にしないでほしい。正しい知識で、あなたの歯を守る責任があります。」
佐藤さん、朝の顎の痛みや、パートナーからの歯ぎしり指摘は、あなたの身体が発している重要な危険信号です。多くの方が「ストレスのせいだから仕方ない」と放置しがちですが、歯ぎしりや食いしばりは、放置すると取り返しのつかない健康被害につながります。
歯ぎしりは、過度な力が歯や顎関節にかかることで、顎関節症を誘発する原因と結果の関係性を持っています。
歯ぎしり・食いしばりを放置する主なリスクは以下の3点です。
- 顎関節症の発症: 顎の関節に過度な負担がかかり、口が開けにくい、顎がカクカク鳴る、痛みがあるといった顎関節症の症状を引き起こします。
- 歯の破折(はせつ): 歯ぎしりによる強い力は、歯の表面のエナメル質をすり減らすだけでなく、最悪の場合、歯にヒビが入ったり、歯の破折(歯が割れること)を引き起こしたりします。歯が割れると、抜歯やインプラントといった大掛かりな治療が必要になります。
- 頭痛・肩こりの慢性化: 顎の周りの筋肉は、首や肩の筋肉と繋がっているため、歯ぎしりによる筋肉の緊張が、慢性的な頭痛や肩こりの原因となることがあります。
なぜ市販品は危険なのか?歯科医院製マウスピースとの決定的な違い
「市販のマウスピースは安いから」と考えるのは、非常に危険な判断です。市販の熱成形タイプの市販マウスピースは、お湯で温めて作る簡易的なものですが、これはあくまで歯の表面を覆うだけであり、咬合調整機能がないという欠如の関係性を持っています。
咬合調整とは、歯科医師が患者さん一人ひとりの噛み合わせの癖や顎関節の状態に合わせて、マウスピースの厚みや形をミリ単位で調整する専門的な作業です。
市販のマウスピースは、この咬合調整ができないため、装着することで一時的に歯のすり減りは防げても、噛み合わせの不均衡を悪化させ、かえって顎関節に負担をかけてしまうリスクがあります。歯ぎしり対策は、単なる「歯の保護」ではなく、「顎関節の治療」であるため、専門的な調整が不可欠なのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 市販品を長期使用し、噛み合わせが悪化して来院した患者さんの治療は、最初から歯科医院製マウスピースを作った場合よりも、時間も費用もかかります。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちで、市販品で済ませた結果、顎関節症が進行し、マウスピース治療だけでなく、より複雑な治療が必要になるケースを数多く見てきたからです。この知見が、あなたの成功の助けになれば幸いです。
【費用と効果】保険適用でマウスピースを作る具体的な手順と自己負担額
佐藤さんが最も心配されている費用について、明確な情報をお伝えします。
歯科医院作成マウスピースは、歯ぎしり治療(スプリント療法)目的の場合に保険適用となる条件の関係性を持っています。つまり、歯ぎしりや顎関節症の治療として作成する場合、健康保険が適用されるケースがほとんどです。
保険適用後の具体的な費用目安
厚生労働省の定める診療報酬点数に基づき、3割負担の場合、歯科医院作成マウスピースの費用は約5,000円〜15,000円程度が目安となります。これは、ペルソナが心配するような数十万円の自費診療(自由診療)とは異なり、非常に現実的な金額です。
📊 市販品 vs 歯科医院作成品:適合性・安全性・費用の徹底比較
| 比較項目 | 市販マウスピース(熱成形タイプ) | 歯科医院作成マウスピース(スプリント療法) |
|---|---|---|
| 適合性 | 低い(簡易的な歯型) | 高い(専門的な歯型採取と調整) |
| 安全性 | 低い(長期使用で顎関節症リスク) | 高い(歯科医師による咬合調整) |
| 費用(保険適用) | 1,000円〜5,000円(全額自己負担) | 約5,000円〜15,000円(3割負担) |
| 効果 | 歯の保護(一時的) | 歯の保護、顎関節の安静(治療効果) |
マウスピース作成の具体的な手順(保険適用の場合)
- 初診・検査: 歯科医師による問診、顎関節の検査、レントゲン撮影など。
- 歯型採取: 歯型を採取し、患者さんの噛み合わせに合わせたマウスピースを製作所に依頼。
- 装着・咬合調整: 完成したマウスピースを装着し、歯科医師が咬合調整(噛み合わせの微調整)を行います。
- 定期的な調整: 装着後も、噛み合わせの変化に合わせて定期的に調整を行います。
よくある質問(FAQ):マウスピースで歯ぎしりは「治る」のか?
Q1. マウスピースで歯ぎしりは「治る」のでしょうか?
A. マウスピース(スプリント)は、歯ぎしりそのものを「完治」させる治療法ではありません。歯ぎしりの原因はストレスや噛み合わせの不均衡など多岐にわたるためです。しかし、マウスピースは歯や顎関節にかかる過度な力を軽減し、顎関節症の症状を緩和する非常に有効な治療法です。歯ぎしりによる健康被害を防ぐための「守りの治療」だとお考えください。
Q2. 治療期間はどれくらいかかりますか?
A. マウスピースの製作期間は、歯型採取から約1週間〜10日程度です。その後、症状の改善には個人差がありますが、通常は数ヶ月から半年程度の継続的な装着と、数週間ごとの咬合調整が必要になります。
Q3. 自費診療になるケースはありますか?
A. 歯ぎしりや顎関節症の治療目的であれば、基本的に保険適用となります。しかし、歯列矯正やホワイトニングなど、美容目的や他の治療目的でマウスピースを作成する場合は、自費診療(自由診療)となり、費用は高額になります。治療目的を明確に歯科医師に伝えることが重要です。
まとめ
佐藤さん、歯ぎしり対策は安全性が最優先です。市販マウスピースは、費用は安くても、あなたの歯と顎を危険にさらす可能性があります。歯科医院作成マウスピースであれば、保険適用で咬合調整された安全な治療が受けられます。
費用を理由に安全を犠牲にする必要はありません。あなたの歯の健康は、あなたが思っている以上に大切です。
あなたの歯と顎を守るために、まずは専門家による診断を受けましょう!
[参考文献リスト]
- 厚生労働省 診療報酬点数表(保険適用に関する公的情報)
- 日本顎関節学会(顎関節症、咬合に関する専門的知見)
- 日本歯科医師会(歯科医療に関する公的な見解)