急な訃報、驚かれましたよね。 今、コンビニで買ったばかりの香典袋を前に、「書き損じたらどうしよう」「筆ペンなんて普段使わないから自信がない」と手が止まっているのではないでしょうか。
大丈夫です、まずは深呼吸してください。 葬儀の現場に20年立つ私から、最初に一番大切なことをお伝えします。 香典袋の中袋(内袋)は、無理に筆ペンを使わず、普段使い慣れた「黒のボールペン」で書いても全く問題ありません。
この記事では、スマホを横に置いてなぞるだけで完成する「実物大の書き方見本」と、ビジネスマンとして恥をかかないための「会社名の正しい入れ方」を、現場のプロの視点で解説します。 形式にとらわれてあなたが焦ってしまうよりも、心を込めて丁寧に準備することの方が、故人への何よりの供養になりますよ。
[著者情報]

高橋 礼子(たかはし れいこ)
葬祭ディレクター1級 / 葬儀社勤務歴20年
のべ1万件以上の葬儀を担当。「マナーは形式ではなく、相手を思いやるためのもの」がモットー。現場で数え切れないほどの香典袋を受け取り、整理してきた経験から、参列者と遺族の双方にとって本当に親切なマナーを発信しています。
まずは「表書き」。宗派がわからなくても失敗しない選び方
香典袋を用意する際、最初に迷うのが「表書き(上段の文字)」ではないでしょうか。 市販の香典袋には「御霊前」「御仏前」など複数の短冊が入っていますが、これらは相手の宗教・宗派によって明確な使い分けが必要です。
特に注意が必要なのは、「御霊前」と浄土真宗の関係です。 一般的に「御霊前」は仏教全般で使えると思われがちですが、浄土真宗では「人は亡くなるとすぐに仏になる」と考えるため、「霊」という概念が存在せず、「御霊前」は使いません。
もし、故人の宗派がわからない場合は、どうすればよいのでしょうか? ビジネス関係の参列など、宗派を確認するのが難しい場合は、全宗派対応の「御香典」を選ぶのが最も安全なビジネスハックです。
【プロの助言】中袋は無理に筆ペンを使わず「黒ボールペン」で書きましょう
さて、ここからが本題です。 「表書きは薄墨の筆ペンで書いたけれど、中袋(内袋)の住所や名前も筆ペンで書かないといけないの?」 そう思って、憂鬱になっている方も多いはずです。
現場のプロとして断言します。 中袋(内袋)への記入に関しては、筆ペンではなく「黒のボールペン」や「サインペン」を使うことを強く推奨します。
なぜなら、中袋と黒ボールペンには、遺族の事務処理を助けるという「実務的な推奨関係」があるからです。 中袋に書かれた情報は、後日、ご遺族が香典返しを送ったり、お礼状を書いたりするための「重要な顧客データ」になります。 慣れない筆ペンで書かれた「達筆すぎて読めない文字」や「滲んで潰れてしまった数字」は、ご遺族にとって確認作業の大きな負担となってしまうのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 中袋の住所・氏名・金額は、誰が見ても読み間違えようのない「楷書」で、ハッキリと書いてください。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちですが、葬儀後のご遺族は心身ともに疲弊しており、事務作業の負担は想像以上に重いからです。「マナー違反ではないか」と気にするよりも、「ご遺族がパッと見て読めるか」を気遣うことこそが、本当の意味でのマナー(思いやり)だと私は考えています。
スマホを見ながら書くだけ!金額(大字)と会社名の正しい配置
それでは、実際にボールペンを持って書いていきましょう。 ここでは、書き損じを防ぐための「金額の漢字(大字)」リストと、ビジネスマンとして恥をかかない「会社名の配置」について解説します。
1. 金額は「大字(旧字体)」で書くのが正式
香典の金額は、改ざんを防ぐために「大字(だいじ)」と呼ばれる旧字体の漢数字を使うのが正式なマナーです。 以下の表を参考に、一文字ずつ丁寧に書いてみてください。 ※ただし、中袋に横書きの記入欄がある場合は、算用数字(1, 2, 3…)で書いても問題ありません。
📊 金額ごとの漢数字・大字早見表
| 金額 | 正式な書き方(大字) | 略式(これでも可) |
|---|---|---|
| 3,000円 | 金 参阡圓 也 | 金 三千円 |
| 5,000円 | 金 伍萬圓 也 | 金 五千円 |
| 10,000円 | 金 壱萬圓 也 | 金 一万円 |
| 30,000円 | 金 参萬圓 也 | 金 三万円 |
| 50,000円 | 金 伍萬圓 也 | 金 五万円 |
| 100,000円 | 金 壱拾萬圓 也 | 金 十万円 |
2. 会社名は「氏名の右側」に小さく添える
仕事関係で参列する場合、会社名や肩書きを入れる必要があります。 この時、氏名と会社名には明確な「主従関係」を持たせることがポイントです。 あくまで「あなた個人」が参列するのですから、氏名を中央に大きく書き、会社名はあくまで所属を示す情報として、右側に小さく添えましょう。
最後にチェック!お札の向きと「薄墨」の範囲
書き終わったら、最後にお金を包んで仕上げです。 ここでも2つだけ、重要なチェックポイントがあります。
- お札の向きは「顔を伏せる」 お札を中袋に入れる際は、肖像画(顔)が描かれている面を「裏側」にし、かつ「下側」に来るように入れます。これには「悲しみで顔を伏せる」という意味が込められています。
- 薄墨は「表書き」だけでOK 「香典は薄墨で」と言われますが、これはあくまで「表書き(外袋)」の話です。 先ほどお伝えした通り、中袋は事務書類としての性質が強いため、中袋まで薄墨で書く必要はありません。むしろ、薄墨で書かれた住所や数字は読みづらいため、中袋は濃い黒ではっきりと書いてください。
まとめ
急なことで準備も大変だったかと思いますが、これで香典袋の準備は完璧です。
香典において最も大切なのは、文字の美しさや形式の厳密さではありません。 「故人を悼む気持ち」と、忙しい中対応される「ご遺族への配慮(読みやすさ)」です。
中袋をボールペンで丁寧に書いたあなたの香典袋は、決してマナー違反などではなく、ご遺族にとって最もありがたい「思いやりのある一通」になるはずです。 どうぞ、自信を持って参列してきてくださいね。
[参考文献リスト]
- 香典の相場・書き方・渡し方 – 公益社
- 香典袋の書き方・選び方 – 株式会社マルアイ
- 不祝儀袋(香典袋)の書き方・選び方・包み方 – 株式会社ササガワ