✍️ この記事を書いた人:中村 優太(ファイナンシャルプランナー / 愛猫家)
独立系FPとして、これまで500世帯以上の20〜30代の家計相談に応じてきました。専門は、データに基づいた合理的なライフプランニングとリスクマネジメントです。プライベートでは2匹の保護猫と暮らしており、ペット情報メディア「PetNomics」でコラムも連載中。専門家として、そして一人の飼い主としての両方の視点から、あなたの悩みに寄り添います。
結論から言うと、あなたのような合理的な方にとって、必ずしもペット保険は必須ではありません。大切なのは「損か得か」という視点ではなく、あなたの「貯蓄力」と「どこまでのリスクを許容できるか」という物差しに合った備え方をすることです。
この記事では、保険会社のポジショントークを一切排除し、ファイナンシャルプランナー(FP)である私が「保険ナシ」という選択肢も含めて、あなた専用の「お金の守り方」を見つけるお手伝いをします。
読み終える頃には、もうネットの意見に惑わされることなく、自信を持って「我が家の方針」を決められるようになっているはずです。
なぜ9割の人が「ペット保険はいらないかも」と一度は思うのか?平均診療費のワナ
「うちの子は健康だから大丈夫」「何かあった時のために貯金しているから十分」。これらは、私がFPとしてご相談を受ける際、本当によく聞く言葉です。Yahoo!知恵袋のようなQ&Aサイトを覗いても、「保険料を払うなら、その分おやつやご飯を豪華にしてあげたい」といった意見がたくさん見つかります。
そう思うのは、とても自然なことです。特に、若くて元気なペットと暮らしていると、高額な治療費はどうしても他人事に感じてしまいますよね。
実際に、ペット保険大手のアニコム損害保険が発表している「家庭どうぶつ白書2023」によると、猫一頭あたりの年間平均診療費は75,593円です。この数字だけを見ると、「月々6,300円程度の備えがあれば、平均的には対応できる」と考えてしまうかもしれません。
しかし、この「平均値」だけを見ていると、ある非常に重要な事実を見落としてしまいます。 それが、ペットの医療費における「平均値のワナ」なのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「平均」という言葉に安心しないでください。ペットの医療費は、風邪のような数千円の支払いと、ガン治療のような100万円以上の支払いの「平均」で成り立っています。
なぜなら、多くの人は自分も「平均」の範囲内に収まるだろうと無意識に考えてしまいがちで、確率の低い、しかし起きてしまった時の経済的ダメージが壊滅的な「高額診療費のリスク」を過小評価してしまうからです。このワナに気づくことが、後悔しないための第一歩です。
【結論】「損得勘定」から「リスク管理」へ。あなたの“最悪の事態”はいくらですか?
では、どう考えれば良いのでしょうか。ここで、思考のスイッチを切り替える必要があります。ペット保険は、当たりのない宝くじのようなもの。「損得」で考えれば、なにも起きずに保険料だけを払い続けるのが一番“損”で、それが飼い主にとっては最も幸せな状態なのです。
つまり、ペット保険や貯蓄は「得をするため」の金融商品ではなく、万が一の経済的ダメージを管理するための「リスク管理」のツールとして捉えるべきです。
ここで重要なデータをご紹介します。先ほどと同じ「家庭どうぶつ白書2023」によれば、年間50万円以上の診療費が発生した猫の割合は10.7% にも上ります。
猫の年間診療費別の割合(2022年度)
・50万円以上:10.7%
出典: [家庭どうぶつ白書2023](https://www.anicom-sompo.co.jp/special/whitepaper/2023/) – アニコム損害保険株式会社
これは、およそ10頭に1頭は、ある年に突然50万円以上の出費に見舞われる可能性があることを示しています。この「高額診療費」のリスクこそ、私たちが備えるべき対象です。この高額診療費のリスクの存在が、ペット保険という商品の価値を生んでいるのです。
そこで、あなたに一つ質問です。「あなたが、家計に大きなダメージを受けることなく、かつ精神的な動揺も少なく『これなら払える』と思える上限金額はいくらですか?」。この金額が、あなたのリスク許容度を測る一つの基準となります。
あなたはどっち?「貯蓄派」vs「保険派」後悔しないための5つの自己診断チェックリスト
では、あなたに合うのはどちらの備え方でしょうか。以下の5つの質問に「はい」「いいえ」で答えてみてください。
毎月、給与の手取り額の15%以上を、特に意識しなくても貯蓄に回せているか?
現在の預貯金のうち、生活費3ヶ月分とは別に、すぐに使えるお金が50万円以上あるか?
突然50万円の出費が発生しても、「仕方ない」と割り切って冷静に支払える自信があるか?
愛猫の治療方針を獣医師と相談する際、提示された選択肢の中から、お金を理由に安い方を選ぶことに強い抵抗を感じるか?
コツコツお金を管理するより、毎月定額を支払うことで「安心」を買いたいという気持ちが強いか?
診断結果
「はい」が3つ以上だったあなたへ → あなたは『計画的貯蓄派』です
あなたのように、計画的に資産を形成でき、突発的な出費への耐性がある方は、必ずしもペット保険に加入する必要はないかもしれません。ただし、貯蓄派には特有の注意点があります。それは、治療の先延ばしリスクです。自分の貯蓄が減っていく痛みから、「もう少し様子を見よう」と判断し、結果的にペットの症状を悪化させてしまうケースです。このリスクを理解した上で、ペット専用の口座を設けるなど、明確なルール作りをすることをお勧めします。「いいえ」が3つ以上だったあなたへ → あなたは『安心優先の保険派』です
あなたにとっては、ペット保険が心強い味方になる可能性が高いです。保険の最大のメリットは、いざという時に経済的な心配をせず、愛猫にとって最善の治療法を選択できることです。保険派の注意点は、補償内容の誤解です。加入前にかかっていた病気(既往症)や、ワクチンなどの予防医療、歯科治療の多くは補償対象外です。「保険に入っているから万全」と思い込まず、契約内容をしっかり確認することが重要です。
ペット保険と貯蓄は、どちらもペットの医療費に備えるためのリスク管理手段ですが、その特性は異なります。 以下の比較表で、両者の違いを客観的に見てみましょう。
📊 「貯蓄で備える」vs「保険で備える」メリット・デメリット比較
| 項目 | 貯蓄で備える | 保険で備える |
| メリット | ・使わなければ全額自分の資産になる<br>・保険の対象外(予防など)にも使える<br>・手続きが不要 | ・一度に大きな自己負担を避けられる<br>・高額治療の際、精神的な負担が少ない<br>・貯蓄が苦手でも強制的に備えられる |
| デメリット | ・病気やケガが続くと枯渇するリスク<br>・意志の強さが必要<br>・治療の先延ばしに繋がる可能性 | ・使わなくても保険料は戻らない<br>・補償対象外の治療がある<br>・年齢と共に保険料が上がる |
| 向いている人 | ・計画的な貯蓄が得意な人<br>・50〜100万円の予備資金がある人 | ・貯蓄が苦手な人<br>・予備資金が少ない人<br>・精神的な安心を重視する人 |
よくある質問(FAQ)
Q. 結局、おすすめの保険はどれですか?
A. 特定の商品をお勧めする立場にはありませんが、FPとしての選び方のポイントは「何のために保険に入るか」を明確にすることです。もしあなたが「日常の小さな通院よりも、万が一の高額な手術にだけ備えたい」のであれば、「免責金額(一定額までは自己負担)」を設定したり、「補償割合を50%」にしたりすることで、月々の保険料をかなり抑えることができます。まずは複数の会社の資料を取り寄せ、ご自身の目的に合ったプランを比較検討してみてください。
Q. 高齢になってから保険に入るのは遅いですか?
A. 多くのペット保険は、新規加入できる年齢に上限(8歳〜12歳程度)を設けています。また、高齢になるほど保険料は高くなり、加入時の健康状態によっては特定の病気が補償対象外になることもあります。もし保険加入を検討するなら、若くて健康なうちの方が選択肢は多く、有利な条件で加入できるのが一般的です。
Q. 保険料を安く抑えるコツはありますか?
A. 上記の「免責金額の設定」や「補償割合の調整」のほか、年に一度まとめて支払う「年払い」にすると、月払いより合計額が割安になる場合があります。また、多頭飼育の場合、割引制度がある保険会社も存在します。
まとめ:あなたと愛猫だけの「正解」を見つけよう
ペットへのお金の備え方に、万人共通の唯一の正解はありません。大切なのは、インターネット上の「損か得か」という議論に振り回されるのではなく、ご自身の価値観と経済状況という、あなただけの物差しで判断することです。
この記事を通じて、思考の整理はできたでしょうか。これであなたも、情報に流されることなく、自信を持って愛猫のための最善の選択ができるはずです。
今日の診断結果を基に、まずは具体的な第一歩を踏み出してみましょう。それが「毎月2万円をペット専用口座に貯蓄する」という決意でも、「免責金額を設定した上で、月々1500円程度の保険の資料を取り寄せてみる」という行動でも、どちらもあなたと愛猫にとって素晴らしい一歩です。
[監修者情報]
本記事は、YMYL(Your Money or Your Life)領域の情報を含むため、経済的側面の記述はファイナンシャルプランナーの中村優太が担当し、獣医学的側面については、別途、獣医師の監修を受けています。
[参考文献リスト]
アニコム損害保険株式会社「家庭どうぶつ白書2023」
公益社団法人 日本獣医師会 公式サイト